扁桃炎
急性扁桃炎とは?
扁桃とは
喉の奥にある扁桃(へんとう)は、主にリンパ組織からなる器官です。
② 舌根扁桃(ぜっこんへんとう)
③ 咽頭扁桃(いんとうへんとう=アデノイド)
④ 耳管扁桃(じかんへんとう)
⑤ 咽頭側索(いんとうそくさく)
などがあり、喉を防御するように輪状に連なっています。
扁桃は侵入した細菌など殺菌する効果のある白血球を多く含んだリンパ組織からできており、細菌やウイルスなどの病原体が身体に入り込むのをくい止めます。
しかし、侵入した病原体が強かったり、身体が弱って白血球の働きも弱くなっている場合、扁桃の中で病原体が暴れて強い炎症を引き起こします。
これが「急性扁桃炎」です。
健康な時は免疫力が上回っているため、病原体を打ち負かして炎症は起こりませんが、体力が落ちて病原体の感染力が上回ると炎症が生じてしまいます。
つまり、免疫力と感染力の力比べで、感染力が勝ると「扁桃炎」が発症してしまうのです。
炎症を起こした扁桃は、赤く腫れ、膿を持ったり、激しく痛みます。
同時に高熱や全身倦怠感も発症します。
また炎症や腫れのために、食べ物が痛くて飲み込めなくなることさえあります。
このような急性の炎症をたびたび繰り返してしまう状態を「慢性扁桃炎」といい、何度も炎症を反復すると「習慣性扁桃炎」ということもあります。
原因と症状
急性扁桃炎の原因は、病原体による感染です。
扁桃炎の病原体は特別なものではなく、普通にどこにでもいる細菌やウイルスです。
代表的な細菌には、溶連菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌など。
ウイルスは、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、EBウイルス、エンテロウイルスなどがあります。
ここでいうインフルエンザ菌は、冬の感染が話題となるインフルエンザウイルスとは異なります。
これらのどこにでもいる病原体の感染力が、ヒトの免疫力を上回ると急性扁桃炎が発症します。
急性扁桃炎の主な症状は
②喉の痛みや、飲み込む時の痛み
③寒気
④全身倦怠感
⑤頭痛や関節痛
このとき喉の奥を見ると両脇が赤く腫れてたり、扁桃に白いものが付着していることが分かります。
この段階で適切な治療をすれば、比較的早く症状は治まりますが、急性扁桃炎が重症化してしまうと扁桃の中だけでなく、周りにも炎症が及んでしまい「扁桃周囲炎」となります。
さらに悪化して扁桃の周りのすきまに膿がたまってくると「扁桃周囲膿瘍(のうよう)」となり、入院が必要となります。
扁桃周囲膿瘍では、扁桃の周りに貯まった膿が身体へ拡がり、首に膿が貯まる「深頸部(しんけいぶ)膿瘍」、胸に膿が貯まる「縦隔(じゅうかく)膿瘍」といった命に関わる病気へ進行するおそれがあるからです。
特に免疫力が不十分なお子さんや糖尿病や腎臓病の方は、病気の進行が早いため注意が必要になります。
家庭での対応
上記症状が当てはまった場合、まず安静、運動や飲酒は控えます。
倦怠感や喉の痛みで食欲が落ちるかもしれませんが、栄養補給用ゼリーやアイスクリーム、バナナ、うどん、薄味のスープなど栄養価が高く、喉ごしの良い食べ物を必ず少しずつとりましょう。
また、発熱を伴うために汗をかくので水分は十分に補給してください。
スポーツ飲料を薄めてから飲むと身体が吸収しやすくなるのでおすすめです。こまめにうがいをすることも効果的です。
以上は家庭での注意点です。
なにより重要なことは、耳鼻咽喉科か内科を受診することです。
急性扁桃炎自体はそれほど恐れる病気ではないのですが、重症化すると扁桃周囲炎や扁桃周囲膿瘍になったり腎炎を合併してしまって命に関わることがあります。
市販の総合感冒薬には、原因となる細菌などをやっつける抗生物質は入っていません。
特に小さいお子さんや高齢者の方、糖尿病や腎臓病の方は必ず早期に治療を開始してください。
急性扁桃炎の診断
急性扁桃炎は、問診や喉の奥にある扁桃の状態を観察することによって容易に診断できます。
治療法
通常「急性扁桃炎」では、解熱鎮痛剤などで症状の軽減を図りながら、適切な抗生剤の内服、重症である場合には点滴注射を行って、原因となった細菌などをやっつけます。
内科ではなく耳鼻咽喉科ならではの治療に「ネブライザー治療」があります。
ネブライザー治療は、霧状の薬剤を鼻・口から吸入することで喉や鼻の患部に直接薬剤を当てる治療法です。
患部に効率よく薬を作用させると同時に喉が潤うので、それだけでもとても楽になります。
併せて、家庭でうがいをすることも喉を潤し、清潔を保つのによい方法です。
細菌が原因となっている場合には抗生剤による治療が有効です。
細菌の中でも、溶連菌が原因の場合は「急性糸球体腎炎」「アレルギー性紫斑病」「リウマチ熱」を合併することがあるので、特に抗生剤治療が肝心です。
ウイルスが原因の場合は、通常は抗生剤を使用せずに症状に応じた治療を行います。
発熱に対して解熱剤、関節痛には痛み止めの内服や湿布薬、喉の痛みにはうがい薬やトローチなどです。
ウイルスが単純ヘルペスと分かった場合には抗生剤を加えて内服します。
上記の様に発症初期に適切に治療しないで炎症が長引くと「慢性扁桃炎」に移行する場合があるので注意が必要です。
慢性扁桃炎
「慢性扁桃炎」とは、扁桃内に細菌が住みついて微熱や全身倦怠感などの症状が発症する病気です。
疲れやストレスなどでさらに免疫力が落ちてくると、細菌が増殖して炎症がひどくなり急性扁桃炎と同様の激しい症状が出てきます。
治療を行うと数日~1週間で回復しますが、免疫力が低下すると再び強い炎症が起こります。
1年間に数回繰り返す場合「習慣性扁桃炎」と呼びます。
習慣性扁桃炎は薬では根本的に治せない場合があるので、手術で扁桃を摘出することもあります。
扁桃炎の手術
扁桃摘出術は、口の中からの操作で口蓋扁桃を取りますが、手術は全身麻酔あるいは局所麻酔で行われ、入院期間は手術をした翌日から10日間ほどです。
手術に伴うもっとも危険な合併症は「術後出血」で、手術後5~10日目に起こりやすいといわれてます。
原因は手術後の傷についた瘡蓋(かさぶた)が剥がれるときの出血と考えられていますが、はっきり解明されてません。
なお、慢性扁桃炎のある種のものは、扁桃の症状はほとんどないにもかかわらず別の臓器に悪影響を及ぼします。
「扁桃病巣感染症」と呼ばれ、
腎臓に現われたものを「IgA腎症」
手のひら・足の裏に現われたものを「掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)」と呼びます。
これらの治療にも扁桃摘出術が有効な場合があります。
お子さんと扁桃炎
扁桃を腫らし始めるのは2~3歳ごろからです。
口蓋扁桃は4~8歳の時期に活動が最も活発になって大きさも最大になりますが、その後は徐々に小さくなり、大人になるとほとんど見えなくなります。
子どものころに扁桃が大きいのは、病原体を体内に取り込まないように扁桃が頑張っているからです。
しかし、子供は十分な免疫力が備わってないうえ体力もないので、急性扁桃炎が発症しやすいのです。
個人差が大きいですが、急性扁桃炎を繰り返すようになると慢性扁桃炎となり、小学校に入学する前の時期に最も多くみられます。
扁桃が繰り返して炎症を起こしているうちに他の大きな病気を引き起こすことがあります。
溶連菌が原因となって扁桃炎を発症している場合は、腎炎やリウマチ熱、心内膜炎といった命にも関わりかねない病気を合併することがあります。
扁桃炎を繰り返す場合、手術による扁桃の摘出も考慮の対象となりますが扁桃には細菌やウイルスなどが体内に侵入するのを阻止する役割があるので、むやみに扁桃摘出すればいいわけではありません。
扁桃の摘出手術を行うかどうかについては、扁桃炎に年間何回くらいかかるかなど、一定の基準にしたがって、お子さんの保護者と医師が十分に相談して決めます。
扁桃摘出手術の判断基準
②扁桃炎が肥大しているか否か
③扁桃炎が原因で他の疾患が生じているか否か
予防法
ウイルスや細菌が原因となるので、病原体を排除、打ち勝つ免疫力を保てるよう健康的な日常生活を送ることが重要です。
日常生活における予防策として、「うがい」「手洗い」を習慣づけましょう。
扁桃炎の原因となる細菌やウイルスを体内に入れないことが一番の予防法です。
同時に喉の乾燥を防ぐために保湿を心がけることも大切です。
冬季は加湿器などを用いて適度な湿度を保つ、またマスクを着けるのもおすすめです。
ストレスは免疫力を低下させます。
不規則な生活はストレスを溜め込む原因となります。
日ごろから軽い運動や十分な睡眠、気分転換を図ったりバランスの取れた食生活を心がけることがとても大切です。
免疫力を高める食材として「うなぎ」「にんにく」「バナナ」「納豆」「レバー」「ホタテ」などが知られています。
さらに抵抗力をつけるためビタミンCやEなどのビタミン類を多く含む食材を摂ることもおすすめします。
注意が必要
急性扁桃炎の炎症が急速に周囲にまでおよぶと「扁桃周囲炎」となり、さらに「扁桃周囲膿瘍」を発症した場合、特に注意が必要です。
扁桃周囲膿瘍は、炎症部分が膿瘍を形成してしまった状態で、原因となった細菌の力がとても強い、または感染症に対する抵抗力が低下している場合にここに至ります。
また小骨が刺さった部位から炎症がはじまったり、親しらずなどで歯肉が炎症を起こしたことがきっかけで扁桃周囲から扁桃周囲膿瘍と進んでしまうこともあります。
「扁桃周囲膿瘍」の症状
扁桃周囲の激しい腫脹と発赤、高熱、強度の咽頭痛と嚥下痛、口が開けにくくなる、などが見られます。
口が開けにくいため、医師が喉を観察することが困難になるほどです。
重篤になると気道の閉塞を起こして呼吸困難となることもあります。
また、膿が首の深いところまで入ってしまう「深頸部膿瘍」や膿が心臓の周囲まで下りてしまう「縦隔膿瘍」まで進展してしまうこともあります。
深頸部膿瘍や縦隔膿瘍まで進むことは極めて稀ではありますが、生命に関わる病気なので十分な注意が必要です。
扁桃周囲膿瘍の治療
「扁桃周囲膿瘍」の治療は、入院して十分な量の抗生剤を点滴投与し、切開して膿を出します。
通常は、切開して排膿すれば開口困難は治っていきますが、患者さんはそもそも開口困難なので、切開して排膿することはとても難しいのです。
扁桃周囲膿瘍に移行しそうな場合は、早めに入院して抗生剤の点滴治療を開始することが必要です。